| ■月鬼 第一話 ―三日月夜― ■ 生まれたのは、骸の只中だった。 辺り一面の、骸、骸、骸、むくろ、むくろ。 其れ以外に、何も無い、世界。 真暗い闇に、槍状の三日月が怖ろしい程、鋭利に輝く。 俺は裸足だった。 衣も、襤褸切れの様だ。 月明かりで、真暗い闇が、僅かに緩和される。 骸は、赤か、黒か。 其の、何れかの色であった。 血塗れた赤か。 焼け焦げた黒か。 俺もどちらかの色に染まって居るのだろうか。 頬に、ぱさりと一房、髪の毛が落ちる。 そろそろと指で摘んで見る。 赤だろうか。 黒だろうか。 三日月が映し出したのは、自身と同じ、黄金。 ◇ 轟! 風を斬る音が耳に届くより早く、俺は身を翻す。 僅か間合いの一歩外に、女が居た。 美しい女が。 女の衣は、赤く染まって居た。 地に転がる、骸と同じ、赤だ。 「月鬼・・やはり・・・お前が」 女は悲痛な表情で言う。 俺は『月鬼』言う名前なのだろうか。それとも、 ただ三日月の晩に現れた、ただの鬼なのか。 そこではたと、俺は自身が何者であるかすら知らない事に気付く。 名も、姿も、身分も、 人間であるかさえも。 女は俺の知らぬ俺を知って居る様だった。 「私を殺すか、鬼よ、さあ――」 女は握っていた小柄を落とし、両手を大きく広げる。 「お前が鬼であるのならば、私を殺せ」 美しい女は、其のまま少しずつ俺に近寄って来る。 赤く染まった衣。 流れる黒髪。 この女も、骸と同じ色をして居る。 俺は恐らく常人よりは三倍は長い爪で、女の胸を一突きにする。 赤が飛び散る。 俺自身も、その赤に染まる。 漸く、周りの物全てと同じ色になれて、俺は妙に安堵する。 「―――愚かな」 女がぎりっ、と奥歯を噛み締める。 「其れがお前の答えか!」 何の事だか分からないが、何だか不愉快な気分になる。 俺は女の胸に右腕を突き刺したまま、崩れ行く女の身体を支えて居た。 「愚かな、鬼よ!忘れたか!」 女が吠える。 額に浮かぶ雫は、苦悶の為か。 「私のこの血と引き換えに、私はお前を縛する!そう言った筈だ!忘れたのか!」 女は、何時しか泣いていた。 「忘れたのか!月!」 びくり、と俺の身体が跳ねる。 女、女、女、おんな、おんな、 このおんなは、 そう、この女は、 あやめ――――― 「・・・ああああああああああ!!」 「・・思い出したか・・・でも、もう・・遅い。お前は私の地で・・縛され、眠りに着く・・・」 女はずるずると力を抜きながら、地に落ちて行く。 「あ・・・あ・・・・あ・・や・・・め・・・」 ようやくそれだけを想い出したかの様に、呟く。 女は、微笑んだ。 「お前一人では行かせぬ。共に眠ろう。月鬼よ―――」 其処で俺は、意識を手放した。 月鬼 第一話 ―三日月夜― 終わり 第二話へ続く |
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| あとがき あとがき 新連載「月鬼」です。 皆様、宜しければごひいきに。 まだ名前、月鬼とあやめしか出て来てないね。 でも珍しいですね。案外名前すぐ出てきました。 このあと、ぞろぞろキャラが増えます。 近いうちにイラストアップします〜 |