| ■こんぺいとう 3 お仕事しましょ 4 ■ バダン! と言う大きな音と共に、入り口のドアが景気良く開かれた。 そしてそこに佇む、一人の長身美女。 「やっほー!お元気?麗しの珠子ちゃん登場〜」 見た目のいかにもセレブ系ないでたちには似つかわしくない、素っ頓狂な台詞でいざ登場である。 「雅のゲネ見てから来たから遅くなっちゃった。ほら、雅に大ちゃんレンタル中じゃない?だからちょっと覗いてきたのよ。あらちかちゃん、何か怖い顔してるわね?」 着てきたジャケットを脱ぎ、紅龍にぽい、と投げて渡す。 「珠子、もうちょい普通に渡せ」 「はいは〜い。あ、勇也、茜、高ちゃん、おはよう」 紅龍の言葉をさらりと受け流し、口を半開きにしたまま固まっていた3馬鹿トリオに声をかける。 「お、おはようございます、珠子姐さん」 なんだか極道のようなご挨拶である。 彼女はテーブルに載っていた灰皿を捕獲し、煙草を取り出して火を点けようとして、止まった。 珠子の視線の先には、見慣れない、本来ここに存在するはずのない人物。 つまり、輝愛がいた。 輝愛は、珠子の顔をまじまじと見つめ、 「あ、さっき道教えてくれたお姉さん、さっきはありがとうございます」 と言って、椅子から立ち上がり彼女の前でお辞儀をした。 当の珠子は、未だ固まったままである。 「あの・・・?」 輝愛が不信がって彼女の顔を覗き込む。 「やばい、トーイ、離れろ!」 千影が焦った声で叫ぶが、時既に遅し。 珠子は輝愛の肩をがしっ、と鷲掴みにする。 「ひっ!」 思わず声を上げる輝愛。しかし、珠子はそんな事お構いなしで、大きな瞳をうるうるさせて、感極まった表情で、 「・・・かわい〜い・・」 「は?」 「可愛い!!」 背後で千影と紅龍が『あちゃー』と言って頭を抱えている。 「何?何コレ!可愛い!さっきちゃんと見てなかったから気付かなかったけども!いやーんほっぺたぷにぷに〜!髪の毛サラサラ〜!!」 「いや、あの・・」 「ちっちゃ〜い!目くりくり!!たまんないわーぬいぐるみみたい!!」 言うだけ言って、輝愛をぎゅう、と抱き締める。 「あああああああの!?」 「ああもうたまんないわコレ!さっき会えたのも、ここでの再開も、もう運命よね!確定だわ!ねえ誰の!?この子誰の子!?貰っていい?いいよね?良いわよね?はい決定!!お嬢ちゃん、うちの子にならない?お姉さんいろんな事教えてあ・げ・る」 頬を上気させて輝愛をしっかり抱き締める。 張本人は事態の把握が出来ずに、されるがままである。 「珠子、いくらなんでも『お姉さん』は言い過ぎだろう」 紅龍の突っ込みが入る。 しかし、本来突っ込むべきポイントはそこではないだろう。 「いいじゃない紅ちゃん、この子今日からうちの子ね♪あ、お嬢ちゃん、お名前は?」 「き・・・きあです・・・」 引きつった声で答える輝愛。 ちょっと遠巻きに3馬鹿トリオは事の成り行きを面白そうに眺めている。 何の事は無い。こうなってしまった珠子に、ちょっかいを出す勇気がないだけである。 さっきから下を向いて黙ってた千影が、やおら顔を上げて、 「くをら珠子!いいかげんにしろ!」 「やだ〜ちかちゃん、怖い顔」 「紅龍も、珠子お前の嫁なんだから、何とかしろよな!」 額に青筋立てて食ってかかる千影を、紅龍は呆れたような顔のままさらりと受け流し、 「俺にあの珠子を止められる訳ないだろうが」 と、自信満々で言ってのけた。 「か、かぁわはしぃ〜」 輝愛が珠子の腕の中から何とも間抜けな声を出す。 千影は疲れたような顔で珠子に近寄り、 「こいつはうちのだ。返せ」 ドスの効いた、かなり低い声である。 珠子は千影を上から下まで一通り眺めると、『分かったわよぅ』と言って、輝愛を開放した。 ・・・・もう、何が何だか・・・ 輝愛はもみくちゃにされた自分のほっぺたをさすりながら、社長の顔を盗み見る。 その視線に気付いて、彼女にしか気付かれない程度に、彼は小さく苦笑したまま肩をすくめて見せた。 ・・・・奥さん強い・・・ 輝愛の頭は、この感想でいっぱいになっていた。 ◇ 「改めまして、こんにちは。輝愛ちゃん。田淵珠子よ」 ようやっと平静さを取り戻し、煙草にそれこそやっと火を点けて、彼女、田淵珠子(たぶちたまこ)は口を開いた。 「高梨輝愛です。さっきは道教えてくれて、ありがとうございました」 にっこり笑って答える輝愛、しかし、珠子との間には、保護者と言う壁が立ちはだかっていて、その保護者の肩越しでの会話と言う、何とも妙な形式である。 最も、珠子の旦那である紅龍も、さりげに妻の背後に回りこみ、暴走したらすぐ食い止められるようにスタンバイしている。 ――殆ど猛獣扱いである。 珠子は見かけの「出来るお姉さん」なイメージとは程遠く、ふりふりやもこもこしたぬいぐるみや、乙女ちっくなモノをこよなく愛している。 どう彼女の中で判断されたのかは分からないが、長身である彼女から見た輝愛は、それこそちっちゃくてぴちぴちでフワモコだったらしく、クリティカルヒットに至ったらしい。 「いいか、トーイ」 千影が振り向きもせずに口を開く。 「あのオバハンは、すごい危険だ。ヒドラより危険だ。気安く話しちゃいかんぞ」 「ちょっとちかちゃん何よそれ!」 後ろから抗議が入るが、千影は真剣な顔で最愛の娘分に言う。 「いいか、あーゆー大人にだけはなっちゃいかんぞ」 「ある意味同意するな」 旦那である紅龍まで、ぼそっと背後で同意の意を呟いてたりする。 「まあとりあえず!」 珠子が仕切り直し、と言わんばかりに明るい声でぱん、と一つ手を打つ。 「キアちゃんって、珍しい名前よね?」 「そうですねえ・・あたしも自分でそう思いますけど」 珠子はケリータイプのバックから、一枚の紙とペンを取り出し、 「どんな字を書くの?ここに書いてみて♪」 そう言って、輝愛にペンを渡し、紙の上に指を置き、『ここ』と微笑んでいる。 輝愛はペンを受け取り、机の上でペンを走らせた。 瞬間、珠子が千影と紅龍に振り返り、にやり、と何とも怪しげな笑みを浮かべる。 「な・・なんだよ珠子、気持ち悪いなお前」 「気にするなちか。きっと何か楽しい事があったんだろう」 思わず後退りする千影に、「いつものことだ」と言わんばかりの口調の珠子の旦那。 「しかし、何だか良くない予感がする」 「奇遇だな、俺もだ」 仲良く社長と部長が怯えている様を横目で確認しつつ、珠子は輝愛が自分の名前を書き終わった所で笑い出した。 「ほほほほほ!ざまあみなさい男共!」 「ひ!紅龍、ついに珠子が壊れたぞ!なんとかしろ!」 千影は輝愛の腕を引っ張って、珠子から距離を取りつつ叫ぶ。 「ちか、俺に死ねと言うのか?」 紅龍は落ち着いた表情で、しかし真面目ぶった口調で千影に近づき、芝居がかった顔で涙声になる。 「お前の嫁だろ!あいつのせいで死ぬならお前は本望だろうが!」 「つれないねえ、ちかは」 「私を甘く見たのが運の尽きよ♪欲しい物は何でも手に入れる女だって事、忘れてない?」 さも楽しそうに含み笑いをしている珠子に、男二人は仲良く頬に冷や汗を伝わらせる。 ・・・普通にしてりゃ美人なのに・・・ 千影が、内心で毎回思う台詞である。 珠子自信は、自由奔放に生きている自分が好きなので、耳を傾けた事は無いが。 「悪いが、猫の子じゃあるまいし、『はいどーぞ』なんてコイツやる訳にはいかんぞ」 珠子は『そんなこと分かってるわよ」と言って続ける。 「じゃあ何だよ?」 「でもね、ちかちゃん」 問い掛ける千影の言葉を遮って、珠子はそれこそ鬼の首でも取ったかの様に腰に手を当て、先程輝愛が名前を書いた紙をぺろん、と掲げた。 千影は眉を潜めながら顔を近付けて、その紙に書かれた文章を読んで、 ――絶叫した。 「なにいいいいいいい!?」 「どしたのカワハシ?」 娘分は目を丸くして保護者を覗き込む。 「・・・トーイ、お前・・・これ、ちゃんと読んだか・・・?」 千影の声は震え、額には嫌な汗が浮かんでいる。 「え?いや、名前書いてって言われたから普通に・・」 「たーまーこおおおおおお!!」 輝愛が言い終わるか終わらないうちに、父親気取りの三十路一歩手前の金髪は、紺青の黒髪の悪魔のような美女にのしのしと歩み寄る。 「無効だよな?」 「何の話かしらぁ?」 鼻息がかかりそうな距離まで近づいてすごむ千影に、そっぽ向いて遠い空を眺める珠子。 「カワハシ?」 怯えた表情でおずおずと口を開く当事者。 「残念だったわね、ちかちゃん♪」 珠子は身を翻すと、彼の手から例の紙を掠め取る。 「カワハシ・・?」 「・・・・・・・・トーイ、お前、あれ・・・何の紙か分かって・・・・・・る筈ないよな・・・」 がっくりうな垂れて、魂も半分くらい昇天しかかったような憔悴した表情で、苦々しく呟く。 「聞いて驚け。あれはな」 「う・・うん・・・」 「正式入団書類だ」 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ 「・・・・・・は?」 口を開けて、問い返す。 「正式入団書類だ。入団書類。にゅうだんしょーるーいー!」 「え?」 千影は頭を抱え、 「だーかーらー、トーイ、お前はあのサインのせいでココの団員になっちゃったの!!」 「げ」 下品な呟きを無意識に漏らし、慌てて諸悪の根源、もとい珠子を振り返る。 彼女は満足そうに美しく微笑んで、例の腰に手を当てたポーズで、張りのある声で言った。 「輝愛ちゃん。ようこそ、我らが『アクションチーム』へ!!」 こんぺいとう 3 お仕事しましょ 5 へ続く>> |
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| あとがき やった!やっと出たよ珠子ちゃん!! この人が書きたくて仕方なかったんだよあたしは! 友人に珠子はあたしそっくりだと言われました。 むむむ・・・そうですね(納得) 千影がどんどん親バカに壊れていきます。 素敵です。 |