| ■BGM 2 ー愛し子の 墓辺吹く風 静かなれー 9■ 俺は今、齢17歳にして、人生最大かも知れないイベントに向かって、歩いている。そんな気がする。 無駄に広い廊下。 床には何やら毛足の長い、明らかに高そうな絨毯が敷き詰められている。 両サイドの壁に沿ってディスプレイされた壷やら何やらも、明らかに庶民が一生働いて、買えるか否か、と言った値段ではなかろうか。 通り過ぎる人間が全員、俺達、いや、俺の前を悠然と行くカイを見付けるや否や、その場で壁際に寄り、頭を垂れる。 カイは何食わぬ顔ですたすたと、この毛足の長い絨毯の上を行く。 「ルカ」 突如かけられた声。 前を行くカイである。 「・・・なぁに」 やや重たい口を、やっと何とかこじ開ける。 「うちの父親、ちょっとおかしいけど、気にしないでね」 「ん?ああ、うちの母ちゃんもへんてこだし、別に大して気になんか・・・・父親?」 故郷の母ちゃん思い出しつつ、はたり、と妙な考えに行き着いてしまい、一気に血の気が引く。 カイの服の袖をくいくい引っ張りつつ、 「ちちち父親って、まままさか!?」 「今から会いに行くよ。一応二年ぶりの里帰りだっしー」 「そーでなくて!」 カイは不思議そうに俺の顔を覗き込んで、 「どしたの?何か不都合?あ、トイレ?」 「不都合って言うかさ、お前の父親って、もしかして、もしかしなくてもやっぱり・・」 頬に、額に、背中に、緊張からか、いや〜な汗が転がり落ちる。 「まあ、一応国王っぽいけど」 「やっぱしー!」 俺は絶叫して頭を抱えた。 いやね、まあね、カイが『第三王位継承者』、つまり、この国の『お姫さん』だって時点で、父親は王様なんだろうけど・・もしかしたら何かの手違いで・・って、期待した俺が馬鹿ですか、愚かですか、そうなんですか・・そうですか・・・・ 「ここが父への謁見の間」 紅い、重厚そうな扉の前でカイが言う。 金銀細工で装飾されてはいるが、成金趣味の様な嫌味な感じはない。 カイはその重たそうな扉を開け、 「ルカ」 そう、少し眉を顰めた様に笑って、俺の手を取った。 「?」 カイの表情と行動に、俺の頭に疑問符が浮かぶ。 普段なら、もっと可愛く・・・じゃなくて!普通に笑うし、手だって、差し伸べはするけど、俺が自分から彼女の手を取らない限り、カイは自分で俺の手を握ったりはしない。 なのに。 俺はそんな事を考えながら、カイに引っ張られるままに歩みを進めた。 しばしそのまま歩く。 中央にある玉座に向かって。 俺は意を決して顔を上げ、その玉座に視線を定める。 「は?」 思いがけない光景に、思いがけず声が漏れる。 「居ないじゃん」 そう、本来王が座している筈の玉座は、もぬけの空っぽ。 その代わり、と言っちゃ何だが、目の前には見覚えのある嫌な顔。 「や、ルカ♪」 「げ、レイ!」 目の前に現れたのは、憎きカイの実兄、レイ。 ・・・そっか、考えてみりゃ兄貴なんだからここに居ても当然か・・ 「・・・って事は、お前王子様かよ!?」 ようやくその当然な考えに至り、場所もわきまえず大声でびびる。 「まあね〜」 事も無げにそう言って、手をひらひらさせるレイ。 「ん?でもカイが第三王位継承者、レイが・・」 「俺は二番目」 レイが俺の台詞を引き継いでくれる。 「で、俺の兄貴が第一王位継承者、って訳」 レイはそう言って、俺の身体を180度反対方向に回転させる。 そこで目に入ったのは、カイにも、レイにも似た、一人の男性。 恐らく彼が、第一王位継承者、二人の兄貴なんだろう。 街中を普通に闊歩出来る様な格好のカイやレイと比べると、幾分華やかな服装ではある。 が、俺の思い描いていた『王族』の、キンキラしたイメージとは、随分かけ離れてる。 黒髪碧眼、眉目秀麗、年の頃なら二十代半ばだろうか。 「リューディス・グロウ・セイン・ロード。宜しく」 優雅に挨拶をして、右手を差し伸べる。 俺は一瞬その意味が理解出来なくて、慌ててそれに習った。 「あ、ルカ・ウェザード。ぃよろしく」 無理やり声を絞り出した結果、どうにもお馬鹿な挨拶になってしまった。 俺と兄貴その1との、言い様によっては微妙な挨拶が終わった瞬間、例の俺達が入って来たでか扉がバン!と大きな音を立てて開かれる。 そこに立っているのは、一人の男性。 青っぽい、少しウェーブがかった長髪、細身のそこそこ長身で、割りかし良い男なのではなかろうか。もしかしたら、若い頃は女泣かせまくってた口かもしれない。 彼はものすごい勢いでこちらへダッシュをかまし、「カイちゃん!」と叫びつつ、一番カイの手近に居た俺を、問答無用でぶっ飛ばした。 「ぎゃー!」 「ルカ!」 カイが急いで走ろうとするが、間に合わず、俺は派手に床を転がった。 「ってーな!イキナリ何しやがる!あんたは!」 「っじゃっかましい!お前こそ何者だ!邪魔だ邪魔!俺のスイートハニーエンジェルカイちゃんとの間を阻む虫けらめ!いっそ死ね!」 ぶつけたおでこさすりつつ怒鳴ると、俺以上のボリュームで、頭の上から怒声が振って来る。 「ふざけんな!イキナリどつき倒す奴に名乗る名前なんざ無いわ!ボケ!」 「何だと!貴様礼儀を知らんのか礼儀を!」 「テメエこそ礼儀わきまえろや、ゴラ!」 「小童めが!殺す!殺してやる!?」 『ぐぬぬぬぬ』 俺とオッサンが、鼻くっつけていがみ合いまくってる所に、レイの生ぬるい仲裁が入る。 「はいはい、スト〜ップ、ルカちゃん」 俺はレイに無理やりオッサンから引き離され、カイに後ろから「どうどう」と羽交い絞めにされる。 オッサンはオッサンで、リューディスに無言で後ろから羽交い絞めにされておる。 「離せカイ!王様への挨拶はコイツ殴り倒してからだ!」 「離せリュウ!このクソボーズを殺させろ!」 俺とオッサンは、仲良く(?)羽交い絞めにされたまま、手足をばたつかせる。 コホン、とレイが一つ咳払いをし、 「ルカ、このオッサンが国王、父上、これがカイの旅の連れですよ」 と言ってのけた。 しばしの静寂が流れ、 「国王?!国王!?このオッサンが!?」 「オッサンじゃねえ!訂正しろちびっ子!」 「誰がちびじゃー!」 「お前じゃー!」 再び勃発しそうになった子供の喧嘩に、後ろから片方のほっぺたをうにっ、とやられ、俺は大人しくなる。 そこに来て、やっとこさ俺はまじまじと目の前のオッサンを眺めた。 確かに長髪長身で、スタイルも良い。しかし、着ている者はそこら辺の流れ者と大して差異ないし、近くで見ると無精ひげ生えてるし、襟もだるだるで、やる気など皆無に見える。 どうやっても、この目の前のオッサンには『威厳』とか、『荘厳』とか、『カリスマ性』とかは、見出せない。無理。 「カイ・・」 俺は縋るように背後で俺を羽交い絞めにしたままの彼女を見つめる。 「残念ながら、真実よ」 複雑な面持ちで彼女は答えたのだった。 ◇ 「ルカとやら」 セイン・ロードの王様、見た目ただのオッサンは、今更ながらに玉座にやる気なさげに座り、頬杖ついて俺を横目でチラ見する。 「何だよ」 「お前がカイと旅を共にしていたと言うのは、事実か?」 俺のタメ口に切れもせず、(ただ慣れただけなのかも知れないが)、セイン・ロード王は頬杖のまま、面白くなさそうに聞いた。 「本当も本当。それが何か?」 別段何か悪さした訳じゃないし、怒られたり、あまつさえ処分されたりてのは無い筈・・・ そこまで考えて、俺はカイに怪我を負わせてしまった事を思い出し、一気に血の気が引く。 まさか・・一国の姫君の肌に傷を負わせたら死刑、とか、そんな法あったりするんかいな・・ 俺が冷や汗垂らしながら蒼くなっていると、セイン・ロード王は眉間の皺を一層濃くする。 ――ヤバイ、死刑!? 俺がある意味本気であっち側に行きそうになった瞬間、 「―――ずるい」 「は?」 「ずるいな、お前」 セイン・ロード王は不満げに口をとんがらせ、やおら椅子から立ち上がり、カイをがばちょ!と抱き締めて、 「ちょ、父上!?」 「俺の可愛い可愛いカイちゃんと二人旅だと!?許せん!って言うか羨ましい!!」 ・・・・ ・・・・ ・・・・ 阿呆だ。 こいつは真性の阿呆だ。 悩んだ俺が馬鹿だった。 俺はがっくりと床に膝を着く。 王はカイをしっかりと抱き締めて離さない。カイはもがいているが抜け出せない。 兄二人はまるで微笑ましい物でも眺める様に、現実逃避モードでちょっと遠くの空間を眺めてたりする。 なんなんだ、この一家は! 俺が心の中で叫んだのは、言うまでも無い。 BGM 2 ー愛し子の 墓辺吹く風 静かなれー 10 へ続く >> |
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| あとがき 出ました。馬鹿父。 テンション高い馬鹿が好みらしい管理人、毎回回を追うごとに、普通じゃない人増えます。 ヤバイですよね。 あたしがですか、王がですか。 あ、どっちもですか、そうですよね・・ちーん。 |